朝井リョウの小説『武道館』。
架空のアイドルグループ「NEXT YOU」のメンバーたちが、目標とする武道館ライブに向けて成長して行く日々を描いている。その道のりは平坦ではなく、メンバー1名が突然卒業したり、意にそぐわない水着撮影があったり、ネットで叩かれたり、二期生の募集があったり、あるメンバーの恋愛が週刊誌に暴露されたり、様々な出来事が起き、彼女たちは翻弄されていく。まるで現実世界のアイドルさながらのリアリティを感じた。読み進めるうちに、自然に彼女たちのことを応援する気持ちになっていた。
作者は現実世界のアイドルやアイドル現象をよく観察しているのだと思う。その上で、いかにもありそうなエピソードを創造し、描いている。この作者の得意とするアプローチだろう。
握手会での暴行事件とか、恋愛が露見したアイドルが丸坊主になって謝罪したとか、CDにオマケを付けて販売する商法が批判されたとか、現実にあった事件も世の中のエピソードとして取り入れている。二期生メンバーに「矢吹美久」という名前の子が出てくるが、HKT48ファンなら噴き出してしまうお遊びだ。
また、この小説はアイドル論として読むこともできる。
「アイドルにとって17歳は特別な年齢」
「アイドルは前髪が動かない」
「ダンスは停止している時に揃った方が上手に見える」
など、アイドル論が随所に散りばめられている。
そんな中、本作のメインテーマは、やはり「アイドルと恋愛」なのだと思う。
アイドルのファンにも様々な考えがあるが、大きく分けると恋愛禁止論者と恋愛自由論者になる。この両者は相容れないが、そのどちらのファンも相手にしなければならないからアイドルは大変だ。
私は「恋愛をしてもいいが、するなら判らないようにしてほしい」という論者だ。
私生活と作品は全く別物と区別できる大人の女優や歌手と違って、アイドルはその区別が曖昧だ。公私、虚実ギリギリのところで勝負している。昔から「伊代はまだ16だから」という歌があるくらいだ。最近では、積極的にSNSで私生活の情報を発信することが奨励されている。
だから、アイドルは、私生活がどうであっても構わないとは言い難い。少なくとも、ファンから見える所では、アイドルとしてのイメージを壊すようなことは得策ではなく、しない方がいい。しかし、現代のネット社会の中で「恋愛を判らないようにやる」ことは至難の業かもしれない。だったら、少なくともアイドルとして活躍している間は、恋愛を我慢することが無難ではある。それは、プロ野球のピッチャーが肩を痛めないように利き手でない方で鞄を持つとか、パイロットがフライト前夜は飲酒を控えるとか、そういう心掛けと同じだろう。
朝井リョウは恋愛自由論者なのだろう。恋愛禁止論へのアンチテーゼとして「恋愛をしたこともないアイドルが恋の歌を歌うのはファンへの裏切りだ」として謝罪させられる未来像を描いている。それもまた荒唐無稽だとは思うが、アイドルは私生活と作品を区別できない存在だからこそ生まれた想像だと思う。
この小説を映画化しようという勇気ある製作者はいるだろうか。そして、その映画に出演しようというアイドルグループはあるのだろうか。もしあれば、その映画はぜひ観てみたい。
架空のアイドルグループ「NEXT YOU」のメンバーたちが、目標とする武道館ライブに向けて成長して行く日々を描いている。その道のりは平坦ではなく、メンバー1名が突然卒業したり、意にそぐわない水着撮影があったり、ネットで叩かれたり、二期生の募集があったり、あるメンバーの恋愛が週刊誌に暴露されたり、様々な出来事が起き、彼女たちは翻弄されていく。まるで現実世界のアイドルさながらのリアリティを感じた。読み進めるうちに、自然に彼女たちのことを応援する気持ちになっていた。
作者は現実世界のアイドルやアイドル現象をよく観察しているのだと思う。その上で、いかにもありそうなエピソードを創造し、描いている。この作者の得意とするアプローチだろう。
握手会での暴行事件とか、恋愛が露見したアイドルが丸坊主になって謝罪したとか、CDにオマケを付けて販売する商法が批判されたとか、現実にあった事件も世の中のエピソードとして取り入れている。二期生メンバーに「矢吹美久」という名前の子が出てくるが、HKT48ファンなら噴き出してしまうお遊びだ。
また、この小説はアイドル論として読むこともできる。
「アイドルにとって17歳は特別な年齢」
「アイドルは前髪が動かない」
「ダンスは停止している時に揃った方が上手に見える」
など、アイドル論が随所に散りばめられている。
そんな中、本作のメインテーマは、やはり「アイドルと恋愛」なのだと思う。
アイドルのファンにも様々な考えがあるが、大きく分けると恋愛禁止論者と恋愛自由論者になる。この両者は相容れないが、そのどちらのファンも相手にしなければならないからアイドルは大変だ。
私は「恋愛をしてもいいが、するなら判らないようにしてほしい」という論者だ。
私生活と作品は全く別物と区別できる大人の女優や歌手と違って、アイドルはその区別が曖昧だ。公私、虚実ギリギリのところで勝負している。昔から「伊代はまだ16だから」という歌があるくらいだ。最近では、積極的にSNSで私生活の情報を発信することが奨励されている。
だから、アイドルは、私生活がどうであっても構わないとは言い難い。少なくとも、ファンから見える所では、アイドルとしてのイメージを壊すようなことは得策ではなく、しない方がいい。しかし、現代のネット社会の中で「恋愛を判らないようにやる」ことは至難の業かもしれない。だったら、少なくともアイドルとして活躍している間は、恋愛を我慢することが無難ではある。それは、プロ野球のピッチャーが肩を痛めないように利き手でない方で鞄を持つとか、パイロットがフライト前夜は飲酒を控えるとか、そういう心掛けと同じだろう。
朝井リョウは恋愛自由論者なのだろう。恋愛禁止論へのアンチテーゼとして「恋愛をしたこともないアイドルが恋の歌を歌うのはファンへの裏切りだ」として謝罪させられる未来像を描いている。それもまた荒唐無稽だとは思うが、アイドルは私生活と作品を区別できない存在だからこそ生まれた想像だと思う。
この小説を映画化しようという勇気ある製作者はいるだろうか。そして、その映画に出演しようというアイドルグループはあるのだろうか。もしあれば、その映画はぜひ観てみたい。