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乃木坂46『逃げ水』とカップリング曲を聴く。(ときめき研究家)

乃木坂46のシングル『逃げ水』について、記事にするのがずいぶん遅くなったが、気に入らなかったわけではない。聴きごたえがあって、なかなか記事にするタイミングにならなかったのだ。
今回のシングルは、カップリング曲を含めて、乃木坂っぽくないと言うか、AKBっぽい楽曲が多かった。

『逃げ水』。
『蜃気楼』『Green Flash』に続く、幻影的自然現象三部作と言えるだろう。
電子音を多用したダンスミュージックだが、サビ前で唐突にドビュッシーの「月の光」のメロディーが挟まる。山口百恵『プレイバックPart2』を思い出した。その曲は全くの無音状態を2秒くらい挟んでいたが、『逃げ水』は無音ではない。しかし電子ピアノだけのゆったりとした静謐さを感じさせるメロディーであり、無音と同じような効果がある。大胆なアレンジだが、この数秒の中断があることで、単なるダンスナンバーになっておらず、幻想的で複雑な楽曲になっていると思う。
歌詞は、道の向こう側に見えるが実在しない「逃げ水」に、自分の青春や人生を重ね合わせて歌ったものだ。高校野球の地区予選に熱狂する青春時代は過ぎ、醒めている自分を「客観的」と評する大人になったが、でもどこかで熱くなれるものを求めている。そんな心情は、私のような中高年の聴き手は共感できる。
AKBグループにおいては「半袖」は夏や青春の象徴(『ポニーテールとシュシュ』『Every、カチューシャ』)、「カーディガン」は秋や大人の象徴(『ギンガムチェック』)だ。誰もが大人になってカーディガンを着る季節は来るが、それでも熱くなれるものを求めて生きていく。それは作詞家自身の心境でもあろう。人生の応援歌とも言える。
2番では「幻でも構わない 追いかけたいこの恋」と歌っている。人生論のはずが、久しぶりに心ときめいた恋の歌に矮小化されている気もするが、恋とはそれほど大きな力を持っているのだろう。

『泣いたっていいじゃないか』。
この曲のテーマも『逃げ水』と同じような人生論だ。早口で歌われる現状は、冷静な絶望と密かな希望。
「憧れていたあの人」と「10年後迎えに来て」と言った人は同じ人か別人か、断片的な歌詞は不透明な部分も多いが、過ぎて来た人生で失ったものと残ったものを見つめている言葉に共感できる。
特に「上京時に持ってきて一度も弾いていないギター」は強烈なインパクトのある表現だ。この後も結局弾くこともなく、かといって捨ててしまうこともできず、そのまま押し入れに眠らせたまま死んでいく。誰でもそういうものを持っている。
そういう風に生きていく全ての人への応援歌である。

『未来の答え』。
答えは1つではない、未来に答え合わせをすればいいじゃないかという歌。この歌も応援歌と言える。
前の2曲と違って、この曲はあまり悩んではいない。いや、悩んではいるけど、悟っているというか、悩むことも含めて人生を楽しんでいるようだ。
本当に大事なものは何か、未来になればわかると歌っているが、それが何なのか、「まさかこんなものが」とまで歌っているのに、具体的な答は明示していない。人によって答は違うということなのだろう。
AKB48の『やさしさの地図』を思い出すような、爽やかな勇気をくれる歌だ。

以上の3曲は人生論の歌だ。たまにはこういう曲ばかりでもいい。

『ひと夏の長さより』
これは夏の終わりを名残り惜しむ歌だ。このテーマは私の好みである。AKBグループで何曲もあるテーマだ。そしてそれらの曲のモチーフがふんだんに盛り込まれている。
「台風」は『僕はいない』『プライベートサマー』『ビーチサンダル』。
「かき氷がとけたこと」は『涙の湘南』『そばかすのキス』『波音のオルゴール』。
「金魚すくい」は『僕の打ち上げ花火』。
「浴衣のかわいさ」も『僕の打ち上げ花火』。
「すいか」は『西瓜Baby』『潮風の招待状』。「種の多いすいか」とはどういう意味か。美味しいけど食べにくい、つまり彼女との夏は楽しかったけどトラブルも多かったという意味だろうか。
「もう少しTシャツがいい、カーディガンは着たくない」というフレーズがあるが、これは『逃げ水』と全く同じ使い方だ。わざと使っているのだろうが、さすがに1枚のシングル中の曲では芸がないのではないか。
こうして歌詞でも楽しめるが、曲調も明るい中に一抹の寂しさが醸し出されていて印象に残る。

『女は一人じゃ眠れない』。
映画『ワンダーウーマン』のイメージソングらしい。男性に依存しない強い女性の映画なのに、歌の内容が全く合っていないと批判されていた。私はその映画は見ていないので何とも言えないが、『アインシュタインよりディアナ・アグロン』の時と同じような騒動で、全く学習していないと思う。
純粋に1つの楽曲として聴くと、女性の弱さと強さ、両面を描いていて、そんなに悪くないと思う。ワンダーウーマンに憧れて強くなりたいと願うが、実際にはそうなれない普通の女性のことを歌った歌と解釈できるのではないか。映画をモチーフにした勝手な二次創作だと思えばいいのではないか。

あと2曲は、いわゆる楽屋落ちだ。『アンダー』は、まさにアンダーメンバーの屈託と矜持を歌った曲だ。
アンダーメンバーのファンは感情移入できていいのだろうが、あまりに普遍性がなく、心から楽しめない。曲調としては美しいメロディーがあるのだが惜しい。

『ライブ神』。
ライブの素晴らしさを歌っていて、この曲は普遍性があると思う。古いところだと『皆さんもご一緒に』や『楽園の階段』など、ライブでこそ盛り上がれる楽曲だ。
この曲の場合、前衛的で、Perfumeを連想させる。ライブ会場を宇宙空間に喩えた歌詞も前衛的だ。



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