乃木坂46『ネーブルオレンジ』を聴く。センチメンタルジャーニーの行く先は？（ときめき研究家）

胸が締め付けられるほどセンチメンタルな楽曲だ。何回も繰り返し聴きたくなる。

ミディアムテンポで、耳を引くようなメロディーでもなく、淡々とした楽曲だ。ただ長調で明るく力強い曲調だ。そしてどこか懐かしさを感じさせるフォークソング調だ。このような曲は私の好みに合う。
特徴的なのは、小節の後半から歌い始める点だ。「（ネー）ブルオレンジ」と、（ネー）部分が先走って歌われる。その（ネー）が「ねえ」という呼び掛けかと一瞬錯覚するのは計算づくだろう。
ソロパートが多いので、各メンバーの歌声の違いが楽しめる。ただ残念ながら今の私の実力では、乃木坂メンバーの名前と顔と声は１人も一致しない。

歌詞の内容は相変わらずだ。
ネーブルオレンジ1個だけを手に電車に乗り、君が住むという街をふらりと訪れる。別に約束している訳ではない。それどころかその街のどこに住んでいるのかさえ知らないようだ。そんな気まぐれで無計画な旅に何の意味があるのか？　おそらく意味はない。昔のことを懐かしむこと自体が目的で、旅はその口実に過ぎない。
そもそもこの街はどこだろう？　オレンジと言えば南のイメージがある。東京を起点とするなら、沼津とか静岡あたりか？　いやいや、これは新幹線だと解釈すれば広島や九州ということも考えられる。そこは聴き手の自由だ。自分のよく知る街、あるいは昔の彼女の住む街を思い浮かべればいいのだろう。もちろん北の街でも構わない。
僕と君の関係もはっきりしない。昔、君が、一番好きな柑橘はネーブルオレンジだと言っていたことを懐かしく思い出しているのは事実。しかし２人が付き合っていたのかどうかは微妙だ。注意深く聴いてもそう断定できる表現はない。「恋の甘さ」「スーパーマーケットに並んだあの季節」というフレーズは、同棲していて一緒にオレンジを食べたとも解釈するのが自然だが、当時僕が一人暮らししていてオレンジを買っただけかもしれない。
一方「今の現実は受け止める」というのは、今の僕と君は全く何の繋がりもないという解釈で紛れはないだろう。
そして最後に「片思い　ネーブルオレンジ」とダメ押しされる。昔は付き合っていたが、今はもう僕の片思いだという解釈もできるが、昔から一方的に片思いだったという、秋元康得意のパターンも濃厚だ。
でも、僕と聴き手は奇跡を期待する。ネーブルオレンジの香りに惹かれて君が現れたら、あの頃を語り合おうと歌う。警察犬じゃあるまいし、そんな奇跡は起きっこないのだが、でもどこかで期待している僕の愚かさ、未練がましさも、嫌いではない。